左手の記憶


廃屋の裏木戸を開けると、
細長く伸びた土間の奥に竈が二つ設えられているのが目に入る。
消えた時間の痕跡が残る。
しかし四角四面の思い入れもないから、
こころに積み上げるのも無意味な閑さが胸を衝く。
小枝を拾い集め焚口にくべれば、
パチパチと赤い火の粉が背中に纏わりつくようで、
払おうと伸ばした左手が空をつかんだ。

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